草間彌生~現代アートの女王「永遠」への挑戦~ Vol.2/2

草間彌生~現代アートの女王「永遠」への挑戦~

 海に突き出た古い桟橋に、愛嬌のある姿をした色鮮やかな巨大かぼちゃ。多くのメディアで取り上げられ、話題を呼んだ草間彌生の代表的な立体作品です。インスタ映えする芸術作品として、若い女性やアートにあまり接点のない人にまで人気を集めました。明るくポップな水玉模様のこれら作品には作家の波乱に満ちた人生が刻まれていることも、ぜひ知っておきたいと思います。

>>草間彌生〜現代アートの女王が織り成す「水玉と網目の革命」 Vol.1/2


【はじめに】
 草間彌生の人生は決して順風満帆ではありませんでした。
 幻覚や幻聴に悩まされ、その恐怖から逃れるために水玉や網目模様を一面に描きつづけた幼少時代。画家として頭角を現しながらも、日本という枠におさまりきらず新天地を求めて渡米。そして異国の地で困難に立ち向かいながら描き続けた「無限の網」で、ようやく彼女は高い評価を獲得することとなりました。

 画面を覆いつくす「網目(ネット)」と、「水玉(ドット)」。反転の関係にあるこのモチーフは、草間の代名詞として世界に認められます。ニューヨーク時代の過激な表現が批判されてしまい、日本に帰国してからしばらく不遇な時期を過ごしましたが、時代は草間の独創性を放ってはおきませんでした。再び脚光を浴びた草間は、現代アートの頂点に躍り出ました。

  いまや世界で最も高額で取引される日本人画家となった草間彌生。92歳になった今も絶えず進化し続けています。現在は「永遠」を意識した作品に積極的に取り組んでいます。近年評価を高めているブロンズ作品もそのひとつです。
 草間彌生は何処へ行こうとしているのか、「死ぬまで描き続ける」というそのパワーの根源を探ります。



「無限の網」を超えて

 世界のアートシーンでキャリアを重ねる中で様々なジャンル・テーマ・技法に挑戦し続ける草間彌生ですが、いつも原点にあるのは「ネット」と「ドット」の存在でした。
 網の目のパターンは、彼女が幼少の頃より抱える精神障害や幻覚に由来していて、そこには強迫的なくり返しの衝動をもたらす病理的な側面があるといえます。

 『…カンヴァスに向かって網目を描いていると、それが机から床までつづき、やがて自分の身体(からだ)にまで描いてしまう。同じことを、繰り返し、繰り返しすることで、網が無限に拡がる。つまり、そこでは自分を忘れて網の中に囲まれてしまい、手も足も、着ているものまで、部屋中すべてが網で満たされていく』(草間彌生『無限の網 ―草間彌生自伝』―新潮文庫)

  1999年の米映画『マトリックス』にこんな場面があります。
精神に作用する薬を飲んだ主人公ネオが、傍らの鏡を指で突っつくと表面が波打ちはじめ、鏡がネオの指を這い上り、みるみる手から腕へと体を浸食していくーーー
 草間の幼い頃からの幻覚体験と、類まれな想像力と映像技術を駆使した映画作品のシーンとの類似。草間はきっと無意識のうちに本質的な何かを感じ取るアーティストなのでしょう。

 強迫的な『繰り返しの衝動』は、草間彌生アートの根幹をなす『反復』を生み出しました。網の反復は作品を埋め尽くし、飛び出してなお増殖を続け、無限の宇宙をみることになります。
 1965年の作品《無限の網》では、作品全体が赤のネット/小さな黒の円で埋め尽くされていますが、作品中央部に大きな円が浮き上がっています。
多数の小さな存在が集合し、大きな存在を形成する繰り返し・反復---まるでフラクタクル幾何学図形であり、ミクロからマクロへとつながる無限の宇宙の輪廻のようでもあります。

 「ある日、机のうえの赤い花模様のテーブル・クロスを見た後、目を天井に移すと、一面に、窓ガラスにも柱にも同じ赤い花の形が張り付いている。部屋じゅう、体じゅう、全宇宙が赤い花の形に埋めつくされて、ついに私は消滅してしまう。そして、永遠の時の無限と、空間の絶対性の中に、私は回帰し、還元されてしまう。」

  幻覚体験は、作品「無限の綱」について語った内容と奇妙なまでに符号します。

 「…一個の水玉である自分の生命を見たい。水玉、すなわちミリオンの粒子の一点である私の命。水玉の天文学的な集積が繋ぐ白い虚無の網によって、自らも他者も、宇宙のすべてをオブリタレイト(消滅)するというマニフェストを、この時、私はしたのである。」

 こうして「自己消滅Self-Obliteration」シリーズが生まれたといいます。  
強迫観念に駆り立てられながら、水玉や網の目で空間、そして自分自身を覆い尽くし、自己を消滅させる作品を作り続ける。
世界的な芸術家となってからも折りにふれ原点に立ち返るように描かれる「無限の網」は、草間にとって重要な作品群であることが伺えます。

 1980年代以降、草間は新たな作風に取り組みます。代名詞となった表現方法「ネット」と「ドット」を織り込んで、「植物」や「静物」といった具体的なモチーフを描きはじめるのです。


 代表作「かぼちゃ」をはじめ、「ぶどう」や「花」など「植物」をモチーフとした作品を多く制作します。種苗業を営む旧家に生まれた草間にとって、植物は身近な愛すべき存在であり、同時に幻覚による恐怖を与えるものでした。そして自身を投影する対象でもある特別な存在でもありました。
 ドットやネットで表現された「かぼちゃ」や「花」は、孤独や強迫観念と葛藤する姿を映し出しながらも、永遠のテーマである「命」や「愛」を表すものだといいます。怖れ、不安だけではない、今までにない力強さを感じさせます。

 一方、より一層軽やかでポップな印象を受けるモチーフも現れます。
 近年の作品で重要なモチーフのひとつ、「ハイヒール」。明るい水玉模様を用い、網目の上に力強く立つハイヒールは、女性の自立を表現しているようです。
 「帽子」は作者自身にとって愛着のあるモチーフ。日本に帰国後、初めて製作した版画のモチーフは、靴、植物、そして帽子でした。幼少期の記憶なのか、それとも現在のお気に入りなのか、いずれにしても特別な存在だったことが伺えます。


 小さな存在である「かぼちゃ」や「帽子」。しかし、草間が描く網目や水玉のひとつひとつから、かつて手掛けた巨大な作品「無限の網」と同じような広がりが感じられます。「かぼちゃ」や「帽子」も草間自身も、点となり、網となり、広がり、やがては消滅して広大な空間へ広がっていく。草間の創造性のスケールを感じ取ることができると思います。

 草間の創造性は、やがて平面から飛び出して立体作品やインスタレーションといった空間へと広がることとなります。同時に、「永遠」という時間への憧れは、ブロンズなど金属を用いた作品への挑戦へとつながっていくのです。


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永遠のブロンズ

  草間は90年代になると多様なマテリアルを用いた数々の立体作品を発表するようになります。

《何とも愛嬌のある形をしたカボチャに私は魅せられた。私がカボチャに造形的興味を受けたのは、その太っ腹の飾らぬ容貌なのだ。そして、たくましい精神的力強さだった。》(草間彌生『無限の網 ―草間彌生自伝―』新潮文庫)

 香川県の直島、京都、福岡など、日本各地に出現した巨大南瓜。FRPを用いた色鮮やかなオブジェは人々の心をたちまちとらえ、草間ファンを一気に拡げることになりました。

 近年ではブロンズ、ステンレス、アルミなど金属素材を多用。そこには、作品を永遠に残したいという、作家の強い思いがあるといいます。
作品のモチーフは、おなじみの南瓜をはじめ花、帽子、ハイヒールなど女性らしさが感じられる身近なものが多くみられます。特徴的なビビッドカラーをまとい、グロッシーに仕上げられた見た目にもきれいな作品は若い世代からも多くの支持を集め、近年の草間ブームをいっそう盛り上げることになりました。


 塗装やポリッシュの仕上げをきれいに施したモダンでポップな作品もあれば、鋳造金属のむきだしの質感を訴える重厚感ある作品もあります。
ブロンズの作品『帽子』は、帽子という存在の軽やかさを裏切る、金属のソリッドな物質感が圧倒的。草間作品では帽子というモチーフは絵画でよく取り上げられ、鮮やかな色彩と水玉柄があしらわれ、明るくかわいい出来上がりのものが大半です。
 それに対しこの鋳造作品は、リボンもついているかわいい帽子のはずなのに何か強いメッセージを訴えかけてくる異質な雰囲気を持ち、知的好奇心をかきたてられます。
 よく見ると、帽子に草間の代名詞であるネット柄があしらわれているものの、帽子に直接彫るのではなく細長いひも状のネットを付け足している。それは一見メロンの柄のようにもワーム模様にも見えてきます。帽子のつば付近には、同じく代名詞の水玉に通じる円形の柄がありますが、ひもを巻いて作ったような不思議な模様なのです。

 ブロンズという無機質な冷たく重い物質に、ひも状の不均質な有機的生物的な形状をまとわせ、草間作品に共通する『対比の強調』が完成した作品といえるのではないでしょうか。
 一般が草間作品にイメージすることの多い、ポップなFRP作品の対極に位置する、芸術的アプローチの一品。作家がニヤリとしているのが目に浮かぶようです。

 圧倒的な認知度と人気を誇る草間彌生の作品は、高い資産価値と需要の多さを約束されるもの。それだけに入手には多少の困難が伴うかもしれません。
しかしながら、絵画からオブジェまで作品の幅広さ、モチーフやカラーリングの組合せなど、作品のバリエーションが多岐にわたるのも特徴。広大な草間ワールドをめぐりながら、納得の作品を見つけ出す旅にぜひお出かけください。

近年評価を上げている草間彌生の立体作品「帽子(ブロンズ)」を出品中
1980年代以降はそれまで制作してきた絵画や彫刻作品、インスタレーションのモチーフとして使用し続けてきた水玉やネット、男根状のモチーフなどともう一度向き合い、具体的なモチーフと組み合わせて作品を制作した。


草間彌生の作品をDArtにて販売中>>草間彌生の立体作品「帽子(ブロンズ)」を¥350〜販売中